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2025.06.02 ダイアローグに未来を託して

医師のKです。リレーのバトンを引き継ぐのが遅くなってしまいました。

 

ダイアローグ〜この10年の歩み

 

私たちが「ダイアローグ(対話)」という手法を職場や地域に取り入れようと考え始めたのは今から10年前、2015年のこと、きっかけは、京都に住む精神科医の高木俊介さんが教えてくれた一冊の本でした。フィンランドの支援専門職の実践から生まれた『ソーシャル・ネットワークにおける対話的会議(原題)』という書籍には、「オープン・ダイアローグ」と「アンティシペーション・ダイアローグ」という2つの対話の方法が紹介されていました。

 

この本を読んだとき私は直感しました。これは精神医療にとどまらず、障害のある子どもや大人、その家族を支える医療一般、福祉や教育の場でも活用できる、と。そして2016年、上述の書は翻訳版の『オープンダイアローグ』(日本評論社)となって出版され、多くの関心を集めることになります。

 

2017年には、仲間とともにわたしも実際にフィンランドを訪れ、現地の医療・福祉の専門職から学ぶ機会を得ました。その後、研修を続ける一方、病院内だけでなく、学校、保育所、児童発達支援センター、児童養護施設、保健所など、さまざまな場でファシリテーター(進行役)としてダイアローグに取り組んで来ました。

 

もちろん、いつも順調にいくわけではありません。それでも、ダイアローグには人と人をつなぎ、困難な状況の中にも希望を見出す力があります。特に、当事者やご家族が参加するダイアローグでは、ひとり一人の声が丁寧に聴かれ、その場にいる全員が共に考える空気が生まれます。これこそ、今の医療、保健福祉、教育に求められている「対話」だと感じています。

 

ダイアローグとディスカッションのちがい

 

ただし、ここでひとつの壁にもぶつかりました。それは、私たちが「ダイアローグの作法」に慣れていないということです。わたしたちは、日常の場面で「ディスカッション(議論)」には慣れ親しんでいますが、それはダイアローグとはまったく異なるものです。物理学者のデヴィッド・ボームはこう書いています。「ディスカッションは『打楽器(パーカッション) 』や『脳震盪(コンカッション)』と語源が同じだ。これには、物事を壊す、という意味がある。」一方、ダイアローグは「互いの考えを並べて、共に眺めること」だとボームは述べています。

 

特に、支援が必要なご本人やご家族を取り巻く関係者同士の会議では、立場の違いや組織の力関係が話し合いを難しくしがちです。そんな時こそ、ダイアローグの姿勢が必要なのです。相手の話を遮らずに聴き、自分の意見を押しつけることなく、みんなで対話をつなげていく。その積み重ねが、関係性の中に新しい風を吹き込んでくれます。

 

これからの取り組み

 

これからもわたしたちは、病院の中だけでなく地域社会のさまざまな場所で、ダイアローグの文化を広げていきたいと考えています。会議のあり方を見直し、ひとり一人の声に丁寧に耳を傾ける場をつくっていくこと。そのために、ファシリテーターの育成にも力を入れていきます。

 

ダイアローグは、単なる話し合いの方法ではありません。それは、人と人とがつながるための「態度」であり、「希望」を生み出す力です。これからもその可能性を信じて、取り組みを続けていきたいと思います。

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